自主性という名の大岩

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執筆者

石山 純也

中野校校長 / 富士・大泉高校附属中学校専門担当

「自主性」を引き出す〜大岩が転がりだすきっかけ~

  1. 受験・受検に必須の力、「自主性」の真価

公立中高一貫校の受検をはじめ、近年の中学受験・受検において、最も重視されている力の一つが「自主性」です。単に知識を詰め込むだけでなく、自ら課題を発見し、それを解決するために試行錯誤し、行動する力。これは、お子様の将来の学力だけでなく、社会に出て活躍するための揺るぎない土台となります。

特に、公立中高一貫校の「適性検査」は、詰め込んだ知識で答えるのではなく、資料を分析し、自分の考えを筋道立てて表現する記述力を求めます。この「自ら考える姿勢」こそが、自主性の表れであり、合否を分ける重要な鍵となります。

しかし、私たちE-styleが長年の指導経験から痛感するのは、この自主性は決して「本人の自主性に任せていても出てこない」ということです。むしろ、周囲の大人の「明確な指針」と「意図的な働きかけ」によって、初めて引き出されるものなのです。

 

  1. 「大岩」を転がす最初の一歩を大人がつくる

たくさんのお子様をお預かりするなかで、「自分から動き出す大岩はない。でも、だれかが、力強く押してあげれば転がり始めるかもしれない」ということを感じます。

何もしなければ決して動き出さない大きな岩も、最初の一歩を踏み出すことさえできれば、大きな力を生み出し、やがて誰にも止めることのできない情熱や夢や目標に育っていきます。

私たち大人がすべきことは、その「きっかけ」になるべく意志を持って背中を押すことです。例えば、教室での何気ない雑談や脱線の中で、子どもが自分では知り得なかった(多くはどうでもいい)知識に触れたときに、「へぇ~!」と思ってもらうことができれば、もしかしたら興味を膨らませて、人生の目標になるかもしれません。

願わくばそれが、自分の人生や、周りの人や、ひいては人類全体を豊かにする方向に進んだらいいなぁと思いながら、今日も隙を見つけては脱線しています。

自分の子供時代を顧みても、「自分で考えて自由にやりなさい」というだけでは、子どもは好きなこと、楽しいこと、楽なことしかしません。それが勉強や運動や芸術活動につながることは稀であり、価値あるものへの興味は、決して自分一人では見つけられないものなのです。

 

  1. 自主性を育む「誘い」のサイクルと早期スタートの重要性

人が自主的に何かをやるようになるまでには、明確なサイクルがあります。

  1. 【きっかけ】 未知のものに対して、周りの大人や友達から「誘われた・与えられた」
  2. 【行動】 「やってみた」
  3. 【動機づけ】 「楽しかった・うまくできた・あとちょっとだった」
  4. 【承認】 「ほめられた」

このサイクルの最初の「きっかけ」は、本人の中から出てきたものでないことの方が圧倒的に多いものです。

塾を始めるきっかけも、中学年(小3・小4)の段階で、友達や親に「誘われた」「与えられた」という方が多数です。そして、やってみたら楽しかったから、褒められたから勉強が好きになり、続けていく。高学年(小5・小6)になり、いつしか自分の目標を持ったときに、「この道をそのまま進むことで夢がかなう」ことを知り、「親や友達に感謝しつつ、自分の意志で歩き始める」というプロセスをたどるのです。

逆に、高学年で本人が「やりたい」と言い出したときには、学習の土台を固めるうえで手遅れになりがちなのが、小学生の受験・受検のつらいところです。もしこのコラムを読んでいるのが低・中学年の保護者の方であれば、お子様に良い「きっかけ」「チャンス」を与えるべく、お早目の参加(学習開始)をお願いしたいと思います。

 

  1. 自主性を引き出す具体的なアプローチ:「問いかけ」の力

では、日常の学習の中で、自主性を引き出すための問いかけについて具体的に考えてみたいと思います。

以下の二つの文章を比較したとき、どちらの声掛けが自主性を育むでしょうか。

 

<A>

今日の宿題は、時間がかかりそうな算数の計算から先にやりなさい。

来週の授業までに終わらせるなら、今日は○ページ進めないとね。

本屋さんであなたの課題にちょうどいい問題集を買っておいたよ。

はい。10分たったよ。休憩は終わりだね。勉強に戻ろう。

ここでこうしちゃったから間違えたんだね。直しをしよう!

決められた計画とおりにこなしたから成果が出てきたね!

 

<B>

今日の宿題は、算数の計算と、漢字の練習、どっちから始めると良さそう?

今日はこの問題集を何ページやったら○日までに終わる見通しが立つかな?

(本屋さんで)こっちの教材は○○で、こっちは□□だね。どっちがいい?

はい。タイマーを渡しておくから自分で休憩時間を決めて計ってね。

この問題、なんで間違えちゃったのか自分で分析できる?

成果が出てきたね。何を頑張ったんだい?

 

答えはもちろん「B」です。

重要なのは、「答え」を用意することではなく、「問い」を与えることです。子どもに「どう始めるか」「何から始めるか」を考えさせることで、思考が強制的に動き出します。これが自主性の始まりです。

 

残念ながら、保護者の過度な働きかけが、結果的にお子様の自主性を奪っているケースを多く見かけます。大人にとって「やってあげたほうが圧倒的に速いし、短期的には効率がいい」のは事実です。しかし、そこをこらえ、「やってあげない。やらせてあげて待つ忍耐」という我慢する力が、大人にも求められています。長期的な視点で見れば、自分でやる力を奪うことは、決して子どものためになりません。

 

  1. 自主性が動き出した後の「手放す勇気」

自主性を引き出すうえで、最も大事なのは、大岩が動き出した後です。子どもが自分で決めて動き出したら、私たちはすぐに手を放しましょう。大切なことは以下の二つです。

 

完璧を求めない

子どもが自分で選んだ方法が、大人から見て非効率に見えたり、遠回りに思えたりしても、まずは最後までやらせてみてください。失敗から学ぶ経験こそが、次の自主的な行動をより賢くします。完璧な計画よりも、「自分でやりきった」という経験が何よりも大切です。

 

結果で評価しない

「志望校に合格したから偉い」「テストで良い点数を取ったからすごい」と、結果だけで評価しないことです。「自分で決めて、動き出したこと」そのものを承認しましょう。「自分で決めたから最後までやれたね」「難しい問題に、逃げずに立ち向かえたことが素晴らしい」と、プロセスを評価することが、自主性の継続に繋がります。

 

  1. 「私」にできること

受検成功の原動力として「自主性」は大きな役割を果たします。「やらされている受検」から「やらせていただいている受検」へ。この意識の転換が成果に直結することは言うまでもないことです。

確かに自主性がないまま受検に合格をする生徒は一定数います。しかしながら、合格後中学生になってから目標を見失い、指示がないまま自分では動かず、結果低迷していくのではせっかく頑張ったのにもったいないですよね。

「E-style出身の生徒さんは合格してからも自分で勉強をし続ける力がありますね」と中学校の先生にお褒めいただいたことがあります。

我がことのように嬉しく、励みになりました。私が意識して合格後を見据えた学習習慣作りを始めたのはそこからでした。

今後も自分の力で生きていく力をつけた卒業生をたくさん送り出せるよう、大岩が転がりだす「きっかけ」づくりをしていきたいと思っています。

とりゃーっ!

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